acas社長 大浦昌尚ブログ
カーテンが開いた 2
WOKERZ EXIT vol.3が手元に届いた
夢の家フェスティバルを掲載していただいたが
それ以上に他の紙面が大変興味深く
一気に読んでしまった
なかでも
安全帯(高所作業時に着用する命綱付きベルト)が法改正により
どんなものになっているのか
国内では年間2万件の墜落・転落死傷災害が発生しており
2018年には墜落事故により214名の高所作業者が亡くなっている
事実に驚きとその仕事の過酷さ、そして尊さを
改めて知った
いつの時代にも命がけで一生懸命に働く人たちがいる
そんな人たちのお陰で今があることを感謝したい
だからこそ職人さんたちは子どもたちに
やさしいのかもしれない
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『カーテンが開いた』2
桜が見ごろを迎えていた。
昨年4月8日の昼下がり。
快晴。
神戸の須磨離宮公園に近い兵庫県立こども病院の
周産期センター建設現場。
高さ40メートルのクレーンに二人の男が上っていった。
■クレーンに鳶2人
ニッカポッカのズボンに地下足袋。
鳶(とび)の頭、安永政勝(38)と仲間の佐々木満(37)だ。
こいのぼりを手に抱いている。
現場作業所長関吉和明のアイデアのこいのぼり。
ビニール製だが、大きめのを選んだ。7万円。
鳶になって12年。
関西新空港、美浜、高浜原発の仕事もしたことのある安永。
が、現場にこいのぼりをつるすなんて思いもよらなかった。
二人は要領よくつるしていく。
緋(ひ)ごいや真ごいが春の風に泳ぎ出した。
■子どもが手を振った
その時だった。
40メートルほど離れた病院本館の窓に「異変」が起きた。
直射日光を避けるため昼間は閉じられていることの多いカーテン。
それが次々と開いていく。2か所、3か所、そして数えきれない。
病室の子どもたちが手を振っている。
二人も思わず手を振り返した。
クレーンから下り、安永はプレハブの2階にある所長室に駆け込んだ。
目が赤い。
「所長!子どもが手振ってくれた」。
関吉にも熱いものが混み上げてきた。
■「木炭の煙のせいだよ」
翌日は、現場作業員らの交流の焼き肉大会。
100人近くが6つのドラム缶を囲んだ。
安永は人気を独り占めにした。
仲間の席を回り、前日の「こいのぼり事件」の子細を伝えた。
肉を盛った皿があっという間になくなり、缶ビールが次々と空いていく。
「子どもらが…。そうか、そうか」。
いかつい男たちの目がうるんでいた。
「木炭の煙のせいだよな」。
一人の声にみんなが、ドッと笑った。
現場が一つに。
関吉はそう感じた。
(敬称略)1994年(平成6年)2月8日
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